「VS 猫』   スキゾフレ日記

犬も猫も大好きである。でも、時々猫をからかって遊ぶ。

陽だまりで寛いでいるのを見つけると、猫に気づかれないように抜き足差し足で死角から近づき、しっぽや背中を触る。急に触ると、びっくりして「ふぎゃっ」と言ったり、飛びのく。

猫は耳が良い。高いところから落ちても、くるっと回って無事着地する能力も備えている。人の近くで暮らすようになって、野生は薄れたかもしれないが、とっくの昔に

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神社にいた猫


ヒトが失ってしまったような能力をまだ持っている。やってるのはバカだが、猫に気づかれないように近づくのは、ヒトである自分の、野生への挑戦だ。もちろん、叩いたり蹴飛ばしたりなどしない。

猫の驚き具合は、人への慣れで違う。飛びのいたり、大慌てで逃げ出すのは、人に慣れていない。これらの猫は、こちらの接近に気づくと、そこで警戒し、逃げる準備をする。

人に慣れているのは、接近に気づいても、あまり逃げない。逆にすり寄ってきたりする。人への慣れ具合は、猫にタッチしてみるまでわからない。慣れた猫でも、急に触られると、少し驚く。しかし反応は猫ごとに違う。

 あるマンションの前に、クロネコとトラネコが寛いでいた、いつものようにそぉ~っと、すぐ背後まで近づくのに成功した。

クロの背中に触る。慣れている猫だった。飛び上がったり「ふぎゃっ」という代わりに鳴いた。

「いゃにぁ~ん」

 

青春小説(予定)の断片    ※最後の模擬授業

英語授業の初回と言うことで、まずは川崎先生の自己紹介から始まった。

“My name is Tadahisa Kawasaki. I am 35 years old. I am in charge of the teacher training course. I majored in teaching method of English as a second language.”  

“Then, I want all of you to introduce yourself in turn, of course in English ・・・ Mr.Aoi, please”

一番前の席に座って、いつも熱心に授業を聞いている、法学部4年の青井先輩に当たった。「えっ、俺か?」後ろ姿だが、青井さんの背中はそう言っていた。・・・ABCでも、あかさたなでも、結局青井さんが、いつも一番になるのだが。

 

Hi, my name is Takashi Aoi. I am law 4 year but I want English teacher, really really. I am lucky I can study here.”

アメリカ人講師の「英会話」クラスで見るいつもの青井さんとは全く違った。緊張が他の皆にもはっきり分かる、ヘロヘロ状態だった。いつもの青井さんは、発音はカタカナ英語だが、ネイティブを前にしても、もっと堂々としている。 ところが今回は、相手が日本人の先生なのに、本当にヘロヘロと言う感じだった。ほんの短い文章の中に、自分たちでも容易にわかる間違いが沢山あった。

 

Thank you very much Mr.AoiI give you just one proverb now.

“Practice makes perfect.”  Then, let us start our lesson slowly and firmly.

練習しているうちに慣れる。まずは始めよう、川崎先生のコメントを、自分はそう理解した。

 

Next,Ms. Ishikawa Please. 履修登録の最初には、倍くらいあったはずだが、現在の時点で出席しているのは 10人程度になっていた。そしてこのクラスでは、女子は4人

だった。マドンナ役が似合いそうな、自分と同学年の石川厚子が次だった。

青春小説(予定)の断片    ※最後の模擬授業

その日の授業は、自分がこれまでに経験した中でも、一二を争うつらいものだった。十人余りの小規模講座だが、たぶんほかの学生も皆、同じ思いを味わったに違いない。

 

自分たちは、英語の教職課程の履修生である。ネイティブ講師による「英会話」の授業も必修である。英語で話したり、話しかけられたりしたことが無いわけではない。だが、その日は「日本人による全編英語での授業」、「英語教職課程主任講師川崎先生の英語授業」そして「他の講座の担当講師による見学」に、クラスのみんなが緊張してしまった。

四月に始まった講座だが、ゴールデンウィーク明けには授業が少し変わるかも、と言う噂は聞いていた。しかし「全編英語」は、誰も予想していなかった。誰かにそう言われたわけではない。しかし、自分たちは、それまでの学校英語の経験から、「英語の授業」は、「日本人の先生」が、英語の「文法」「表現」などを「学問のテーマ」のひとつとして「日本語で」教えるものだと勝手に思い込んでいた。今考えると、まったくおかしな思い込みだが、あまりにもそれが普通で、クラス全員が、そう刷り込まれていたのである。

青春小説(予定)の断片    ※最後の模擬授業

“Then let us begin.” 川崎先生が、いよいよ授業の本論に入った。

「バタッ」、「ギー」と椅子を引く音がして、そのあとドタドタと走る音が聞こえた。振り向くと、今年から英語教職課程を取り始めたばかりの、田中と言う二年生が「脱走」するところだった。「お・・ぃと言いかけた『ぃ』を飲み込んで、”Wait!” と川崎先生が呼びかけたが、田中はそのまま走って出て行った。

非常に残念な様子で、川崎先生は授業を再開した。

 

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青春小説(予定)の断片     ※最後の模擬授業

「それから、ひとつ、これはとても大切なお願いです。」

「自分で言うのもなんですが、私は一定の英語コミュニケーション力を身に着けています。それでも母国語は日本語です。日本で育ち、大学まで日本語を以て教育を受けました。皆さんと同じ年齢のころに海外留学経験はあります。その後も海外へは、不定期ではありますが、短期で勉強に行っています。しかし、現在の私の生活基盤は日本にあります。従い、私にとっても、全部英語の授業と言うのは、かなりの労力を必要とします。」

「お約束します。皆さんに最大の効果があるように取り組みます。ですから、皆さんも照れずに大きな声ではっきりしゃべることを心がけてください。間違いは気にしないでください。私達は、母国語である日本語でも間違いを犯します。小学校から今まで、国語のテストは全部100点だった!と言う方いますか? いませんね? 学ぶ対象は外国語であります。間違いはあっても良いのです。それよりも、小さな声で自信無げに話すと、通じるものも通じなくなります。つまり、この授業で目的とするコミュニケーションが成立しないのであります。」

「文法はもちろんですが、英語の「音」は、日本語と違うのであります。日本語のような高低ではなく、強弱のアクセントにより会話が成り立つのであります。伝えたい部分にアクセントを置くのです。抑揚無しに、もぞもぞとくぐもって話しても相手には通じないのであります。」

青春小説(予定)の断片  ※最後の模擬授業

川崎先生の話の要旨はこうだ。

・国際化時代と言われて久しい。しかし、学校での英語の授業は、相変わらず

 読み書き文法中心である。もちろんそれらの重要性は否定されるものでは

 ない。

・「英語」に限らず、「ことば」は、人と人との間のコミュニケーションに

 用いられるものであり、読む・書く・聞く・話す、どの形であっても、重要

 である。

しかし、即効性があり実用的なのは、聞く・話す、であろう。外国人を目の前にして、健常であるのに自らの耳で聞き口で話さず、筆談するのか?

・「英会話」と言うネイティブによる授業があるが、残念ながら、受講者の

 レベルや、どこが理解できていないか、などと言う点を充分考慮して、授業を

 進めていくことのできるネイティブ講師は非常に限られている。

 ・母国語を日本語とする講師であれば、自身の英語習得過程での経験を

  生かして、受講者の弱点を勘案しながら教えることができる。

・ただ、特に発音に関しては、一定の年齢以上になってから習得した場合、ネイティブ同様にはいかない。音声に関しては、十代前半までに母国語の影響を大きく受けるからである。

・しかし世界では、ノンネイティブ間のコミュニケーション用言語として広く英語が使われており、日本語訛りの英語であっても、外国人との実際的なコミュニケーションが取れるレベルなら十分に有益であろう。

・そのための第一弾として、「教員」という志を持つ君たちを手始めに、全編

 英語の授業を行う。「英語をしゃべれない英語教師」から、一定の英語コミュ

 ニケーション力を身に着けた教師を目指してもらう。

 

青春小説(予定)の断片

教壇の川崎先生は、金ボタンの紺ブレザーに淡いブルーのオックスフォード地ボタンダウンシャツ、タイは紺にシルバーのストライプ、足元は、前からだと黒のローファーに見えるが、でも実はサンダル、と言ういつものスタイルで、一呼吸して話し始めた。

「えー皆さん、本日から、この授業では、日本語を一切使えないことになりました。」

「えっ」「あ~」など、驚きともため息ともつかない声で教室内が少しざわついた後、今度は全くの静寂が訪れた。

川崎先生が続けた。「今から、今後の『英語コミュニケーション論』の進め方について説明します。しかし、それが終了した以降は、教室内は全部英語です。私の講義も、そして皆さんから私への質問など、すべてです。日本語は一切禁止です。」

 

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